ひび割れの理由

ひび割れだと思った。
急坂を上った先に佇むカーブミラーの鏡面は網目模様だった。きっと何らかの理由で割れてしまって、こんな風になったのだろう。どこかへ連絡した方がよさそうだが…。
細分化された景色を映す鏡面を眺めながら考えていると、鏡の破片が一枚剥がれて風に舞い、ゆっくり地上へ落ちてきた。破片とはいえ、鏡はそんなに軽いものだろうか？不思議に思って拾い上げてみたら、その破片はとても薄く、そして微かに湿っていた。

……鱗？

魚の鱗に似ている。
海の中を銀色にちらちらと光って泳ぐ。

鱗を空に透かして見る。
鏡の映していた景色の欠片が空へ溶け出し泳ぎ始めた。

ハラ、ハラ、ハラ、ハラ…

鏡面から次々にひび割れた鱗が剥がれて舞い上がる。空に溶けた景色の欠片は一つに集まり小魚形の景色となって、ここからはまだ遠くに見える雨雲の方へ泳いでいく。

そっか、鏡面のひび割れた理由は鱗の乾燥だったんだ。