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深夜。
長く艷やかな銀髪を夜風に流して一人歩きする【噂】の美しい横顔に思わず声をかけた。

「…私みたいに地味な噂に興味があるなんて、珍しい」

蛍に声があったらこんな感じかもしれない。噂は最初驚いた様子だったが、僕の真剣さに透き通った声で笑った。翡翠色のワンピースが柔らかに光っている。

「地味?すごく綺麗ですよ!」
「…そうなの?でも、一人歩きする噂のほとんどはたくさん着飾って注目されるから。私は…」

噂は唯一身につけていた一粒真珠のネックレスを指で撫で、言葉を続けた。

「でも、私は私が好き。私を生み出し、一人歩きさせてくれた人達は優しい人ばかりだったから」

噂は懐かし気に微笑む。

そうだね、君はいい人達の間を巡ってきたんだろうな。だって、僕はおそらく知ってる。小2の頃転校した初恋の子が、夢は絵本作家になることだと言って教えてくれた、近所の川に棲む平凡な魚の物語だった頃の君を。
その他
公開:25/06/22 00:00
更新:25/10/25 11:08

ネモフィラの旅人( あちこち )

旅人なのでいたりいなかったりします

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