完熟

…暑さのせいだろうか？

とある庭師が庭園に大量のカーブミラーを設置し始めた。薔薇園、向日葵畑…とにかくあらゆる区画に。
庭師は自分の担当のネモフィラ畑よりもカーブミラーを見回り、時間をかけて鏡面を磨く。理由を尋ねて場合によっては止めればいいのだろうが、あんまり熱心なものだから好きにさせている。

カーブミラーの鏡面がオレンジ色に染まり始めたのに気づいたのは半月ほど経った頃。艷やかで朝露に濡れた様子は瑞々しく…なんか美味しそうだ。

「熟してないよ、その子」

やばい、こっそり見に来ていたのに庭師にバレた。

「…熟すの？」
「果物だもの」

嘘つけー！どう考えてもカーブミラーだろ！

「その子はいい景色を栄養に磨いて育てる系果物。その名も果樹ミラー！」

一年後。
夕陽の如く完熟した鏡面を庭師と一緒に収穫する。実を割ると鏡の見つめてきた花々の風景が広がり、齧ると爽やかな果汁が溢れ出した。