おにぎり
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新しい恋人が出来て、数週間経った頃、仕事を終え、一人暮らしのアパートに帰ると、玄関の外側のドアノブに、ビニール袋が掛かっていた。中を覗くと、手作りのおにぎりが一つと、一枚の紙が入っていた。紙には『食べてください』と書かれていた。離婚した元妻の字だった。気味が悪かったので、食べずに捨てた。それから、俺が新しい恋人と仲を深めていくたびに、おにぎりがドアノブに掛けられるようになった。しかもその数は一つずつ増えていった。警察に相談したが、苦笑いで適当な対処をされただけだった。そして、おにぎりの数が十を超えた頃、俺は新しい恋人と再婚することになった。引っ越せば大丈夫だろう。そう思っていた。そして、結婚式の日取りも決まった日、家に帰ると、ドアの前に人影が立っていた。夕日に照らされたそれは、元妻だった。炊飯器を小脇に抱え、しゃもじを握りしめて、俺を見ていた。
ホラー
公開:25/06/17 17:20
短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/
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