俺たちの夏
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リサイクルショップに行った。中古の扇風機がお手頃な価格で売られていた。まだ新しい。何か問題があるのだろうか。値札の注意書きを見ると、『落ち込みやすい』と書かれていた。どういうことだろう。安かったし、興味があったので、買った。家に持ち帰ってさっそくスイッチを入れると、普通に作動した。何だ、使えるじゃないか。数日間使っていると、異変に気づいた。クーラーをつけると、その扇風機の首が、突然、がくん、と下に向かって傾くのだ。落ち込みやすいというのはこれか。「君は君じゃないか」「君には君の良さがあるよ」「適材適所というわけさ」色んな言葉をかけたが、扇風機は下を向いたままだった。俺は風鈴を買ってきて、それを窓辺に吊るした。「あれを鳴らしてくれないか」そう声をかけると、扇風機はわずかに上を向いた。こうして、俺と扇風機の夏が始まった。
ファンタジー
公開:25/06/16 18:03
短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/
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