落としましたよ

空を泳ぐ太陽に向け、矢を放つ。
…どうやら命中したようだ。太陽はゆっくりと東へと落ちていく。
太陽が海へと沈んだのを見届けると私は構えと緊張を解いた。
「また腕を上げましたね」
母が私に声をかける。
『はい。今日は一射で太陽を落しましたよ』
母は頷くと「これからも精進するように」と告げ、去っていく。その背中に私は頭を下げる。
母は先代の夜の番人であり、私の師匠だ。私が弓を構えている間は、とても厳しい。
当然だ。夜の番人とは、世界に夜をもたらす為に毎日太陽を殺す者である。
太陽は不滅で、数時間経てば復活し、再び空を泳ぎ始める。泳ぎ疲れたところを仕留めるのが、今代の夜の番人である私の仕事である。
この仕事は世界各地どころか日本各地で行われている。空を泳ぐ太陽は１つだけじゃない。私は自身の縄張りを泳ぐ太陽の一つを落したに過ぎない。
月と星が顔を出す。夜が訪れる。
世界がゆっくりと眠りに落ちる。