落としましたよ

常に移動する巡業型手品師の事をタンポポと呼ぶ。
私は子どもの頃、そんなタンポポから種を貰った。
小さなステージで、魔法のような手品の数々を見せてくれたその人。
感動して、ステージ終了後、控室からトランクを引いて出てきたその人に感想を伝えるべく追いかけた。
その人のトランクからポロっとピンポン玉のようなものが落ちた。
「あの！これ、落としました！あと、手品凄かったです！」
拾ったそれをその人に差し出すと、その人は笑顔で私の手の中にそれをぐっと押し込んだ。
「おめでとう。これでキミも手品師だ」
この時、手品の種を埋め込まれた私。それをあの人の言葉と同じくらい大切にしていたら私も手品師として芽が出た。
手品師は、こうやって弟子を増やしていくものなのだよ、と師匠。
あの時、師匠に出会わなかったら私は手品師になっていなかっただろう。
さて、話はこれくらいにして、私も種をまきに巡業に出かけるとしよう。