袖裏の秘密

2
3

「可愛い〜」
 指先まで隠す萌え袖が愛らしく、彩花は心を奪われた。
「お姉さん試着してみていいですか?」
 肩から指先にかけて包帯を巻いた店主は、笑顔で頷く。
 試着室でその服を着た彩花は自分に見惚れた時だった。
「痛い!」
 蹲るほどの激しい痛みが両腕に走り、袖を捲り上げる。まるで鞭で打たれたような傷跡が至る所に刻まれていて、手首には、手枷で締め付けられたようなの痕もあったのだ。すると、カーテン越しから店主の声が静かに入ってくる。
「貴女は昔の私に似てる。きっと似合うでしょね、服もーー」

ーー 私の傷も ーー

 鏡の方から視線が感じて目を向けると、この服を試着した客だろう、こちらを見下ろし、不気味な笑みを浮かべていた。

「たすけーー」

 その後、彩花の姿を見た者は誰もいない。セーラー服だけが、ハンガーに戻る。袖裏には、新たな傷跡が一つ、増えていた。
ホラー
公開:25/06/14 19:53
更新:25/06/15 01:07

江戸前餡子( あなたの心の中 )

勉強中が故、感想を頂けたら幸いです。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容