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道を歩いていたら、老夫婦に時間を聞かれた。俺はスマートフォンで確かめて答えた。
「三時十五分です」
老夫婦は丁寧に礼を述べ、虹色のボタンをひとつ俺に手渡して言った。
「困ったことになったらこれを出すといいですよ。必ずいいように運びますから」
それはいいものをもらった。俺は家を出た時よりのんびり歩き、待ち合わせ場所の喫茶店に入った。エリコはすぐ見つかった。
「待った? 全然だよな?」
約束は二時だったが、俺の遅刻は日常茶飯事のこと。エリコはいつも笑顔でゆるしてくれる。しかし今日は虫の居所が悪いようで、仏頂面をしていた。俺はすかさずさっきもらったボタンをテーブルに置いた。
「なにそれ……」エリコは深いため息をついてつづける。「何度もかけ違えたボタンをまだ元に戻せると思ってるの?」
俺の頭をよぎったのは、仲むつまじい老夫婦の姿だった。気づけば俺は、生まれて初めて謝罪の言葉を口にしていた。
その他
公開:25/06/14 14:10

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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