ドーナツの穴から

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 彼は、冷徹なビジネスマンであり、甘えん坊な恋人でもある。ある日のデート、ドーナツ屋さんで一休みしている時、たわむれに、「どちらが本当のあなたなの?」と私が尋ねると、彼は「そのドーナツの穴から僕を見てごらん。僕の正体がわかるから」と答えた。私は食べようとしていたドーナツを目の前に掲げ、その穴から彼を見た。そこにいたのは、人間の彼ではなく、一匹の巨大なアリだった。びっくりした拍子に、ドーナツを落とした。ドーナツから粉砂糖が剥がれ、テーブルに散らばった。その粉砂糖を、彼が指の先につけ、嬉しそうな顔で、舐め始めた。
ホラー
公開:25/06/13 17:45

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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