12時01分のシンデレラ(改稿版)

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午後12時01分発、シンデレラ急行ターミナル。
発車30秒前、踊り場のからくり時計の鐘を聞きながら、スーツケースを担いで階段を上る。まるでおとぎ話みたいだけど、これは単なる逃避行。
マリッジブルーの末、届いたドレスも花婿も置き去りにした。プロポーズされ、舞い上がってOKして、準備が進んで我に返った。彼の奥さんをやっていく自信も、そもそも彼のどこが好きかも判らない。正直、好きかどうかさえ判らない。ただ色々変わり過ぎて、どうしたら良いのか。

「お待ちなさい、お嬢さん」
11回目の鐘を聞いた頃、時計の横から声をかけられた。
「迷ってるんでしょう。本当に良いの?」
「すみません急ぎます」
「落としましたよ」
振り返った階段の下、白いものが落ちている。
あわてて駆け下りたところに発車ベルが響いた。

拾ったのは、切符ではなく靴だった。見上げたからくり時計の、王子様の人形が空っぽの手でバイバイした。
ファンタジー
公開:25/06/09 13:56
ラジオ『月の音色』月の文学館 テーマ:落としましたよ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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