誰が為に蛙は鳴く

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真夜中を時計の鐘一つ分過ぎたお城の中庭。聞き慣れた声に胸騒ぎを覚えつつ、私は魔法の解けたぼろ着の裾をつまみ、たった今駆け下りた階段方向へターンした。

「ゲロゲーロ」
……やっぱりお前か。ぬめぬめした緑の足でガラスの靴を抱え、『落としましたよ』とばかりにふんぞり返る、にっくき蛙。
落としたんじゃなくて置いてきたのよ。一世一代の計画を説明したところで、こいつに通じるはずもない。
一代前は、湖に放り込んだ鉄斧を女神様より先に拾われ、金の斧も銀の斧ももらいそこねた。二代前は金のまりを取って来てくれたが、王子様にならないただの蛙で大損した。
童話の主人公に転生する度、このバカ蛙は私の落とし物を勝手に拾い、めでたしめでたしのハッピーエンドをおじゃんにするのだ。

ええくそ、ガラスの靴を王子様に拾わせて、今度こそ玉の輿で一攫千金と思ったのに。
私が求めてるのは王子様であって、トノサマじゃないっつーの!
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公開:25/06/09 13:56
ラジオ『月の音色』月の文学館 テーマ:落としましたよ

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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