恥ずかし草

だれも見たことのない可憐な草花をつくるべく研究を重ね、ついにわたしの理想どおりのものができた。育成も極めて容易で、一週間水やりを忘れたり、種から育ててもめったに枯れることのない植物である。販売ルートの確保さえできれば、わたしは大金持ちになるだろう。さっそく大手の種苗取り扱い会社とアポイントを取り付け、鉢植えの苗を持参すると、懸命に宣伝した。
「こちらは『恥ずかし草』といいます。雪よりも白くスズランのように健気で愛らしい花が咲きます」
開発部と営業部の面々は、興味深そうに前のめりになった。
「ハズカシソウの命名の由来はなんですか？　今は花が咲いていないようですが」
かならずそう聞かれるだろうと、返答は準備していた。わたしは胸を張って説明した。
「恥ずかしがって、花が咲いた姿を見せてくれないのです。開発者であるわたしが保証します」
なぜかは不明だが、その後は丁重に帰宅を促された。