落とし物

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地下鉄の階段を降りていたら、前を行く人から何がが落ちた。
拾ってみると、それは目だった。
きれいな二重、長いまつ毛。
私は思わず立ち止まった。いいな。
辺りを見回したが、誰もこちらを気にしていない。
私はすばやく自分の目を取り、代わりに拾った目をつけた。元の目はその辺に捨てた。
ホームに着くと、いろんな物が落ちていた。鼻、口、眉毛に耳。そして人々は気軽に、しかし熱心にそれらを手にしては吟味している。まるで野菜を選ぶ客のように。
私も惹かれた物を拾い、自分の物と変えた。
次第に欲が出るもので、一度変えてもなかなか満足できなくなった。落ちている物が更によく見えてくる。私は次々と別の物に変えていった。何本もの電車が、横を通り抜けていった。
ようやく納得のいくパーツが揃い、電車に乗る。
さてどんな顔になっただろう。
ドキドキしながらガラスに自分を映す。
そこにあったのは、見慣れた自分の顔だった。
公開:25/06/09 19:27

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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