落とし女と拾い男

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世の中には晴れ男や雨女と呼ばれる人種が存在するが、私の場合は落とし女だ。
ただし単独ではなく、さる人物と会うと必ず落とし物をするという条件つきである。

「落としましたよ」
会社帰り、今日も今日とて呼び止められる。小走りに駆けてきた彼の手には、買い物袋からこぼれたらしいオレンジが握られていた。
「商店街で拾いました。絶対貴方だと思って」
微笑んで差し出す彼のシャツは汗だくだ。帰宅コースが近いのか、月に数回遭遇するが、その度に私の落とし物を拾ってくれる。ハンカチ、ペン、手帳にキーホルダー。きっと彼には、よほどそそっかしい人と思われているに違いない。
「拾い男なんです、僕。……でも」
微笑んだまま言いよどみ、彼は左手でスーツのポケットを探った。
「落ちましたよ、ついに」
「二つも落とし物?やだ恥ずかしい」
「いいえ。貴方じゃなくて、僕が」
ポケットから出した彼の手には、小さな箱が握られていた。
ミステリー・推理
公開:25/06/09 14:01
ラジオ『月の音色』月の文学館 テーマ:落としましたよ 朗読採用いただきました♪

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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