極楽を味わうために

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今夜は待ちに待った世界規模の忘年会。
人々は労働から解放され、各々が一度は行ってみたいと思うレストランで食事を楽しんでいます。腕自慢のシェフたちも最後の見せ場。この店も、最高の贅沢を頬張ろうと洒落込む人たちで賑わっています。
「はぁ~肉うんまっ」
女が牛フィレを堪能していると、日系の男が相席にやって来ました。煙草を吸う店員に彼はただ「シェリー酒を」と伝えます。やがてポテチの欠片を口の端に付けた店員が、小さなグラスを男に給仕しました。彼の食卓には一杯の酒しかありません。
「最後の晩餐がソレでいいの?」
女は興味津々で男に尋ねてみました。
「勿論。今満腹になったらもったいない」
「何で?」
「故郷の言い伝えによると、あの世の食物は一度口にしたら生き返りたくないほど美味いそうだ。だからこれは食前酒。極上の料理を万全の食欲でかぶりつきたいじゃないか」
窓外の花火が、男の眼鏡の中でキラッと炸裂した。
その他
公開:25/06/06 21:40

紅石紗良( 北陸 )

思いついたアイデアの備忘録を兼ねて書いています。よろしくお願いします!
Talesで連作を執筆中です。鉱物や宝石にご興味がありましたらぜひご覧いただければと思います。
https://tales.note.com/creche_collage/wmnx0phfegkgm

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