木の香り

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 その火葬場の煙突の内部には、刃が仕込まれている。火葬場が使われていない時、巨人がやってきて、その煙突で鉛筆を削るためだ。巨人は詩人だから、それで詩を書く。しかし、最近、巨人はその煙突を使っていない。理由を尋ねると、「あれで削った鉛筆を握っていると、死についての詩しか浮かばないんだ」と答えた。別にそれでもいいじゃないか、とは思うが、巨人には巨人の考えがあるのだろう。個人的には、巨大な鉛筆を削った後に漂ってくる、むせかえるような木の香りが好きだったので、少し残念だ。
SF
公開:25/06/02 17:28

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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