鍛治士

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果てしなく続くかと思われた螺旋階段の先に、赤い光が見えた。
金属を打つ音が響いてくる。

人物の輪郭が浮かぶにつれ、石の入った籠がいくつも並んでいることに気付いた。

「君の探し物はそこにあるだろう。」
背中を向けたまま、老人が言った。
「どれでも持っていくがいい。ひとつしか持って出ることはできないがね。」

私はひとつひとつ、籠から手に取って確かめた。
殆どは鉄鉱石だったが、金、銀、石英、宝石の類もあった。

ふと、指先に妙な温もりを感じた。
黒くてすべすべとした、ひとつだけ異質な石だった。

「見つかったかね。」
「えっ、えぇ。」
咄嗟に、両の手を石もろともポケットに突っ込んだ。
左手にダイヤモンドを握りしめたまま。

「帰りはそのエレベーターを使うといい。」
老人は最後まで振り返らなかった。

エレベーターに乗った。
まだ地上は見えてこない。
その他
公開:25/06/03 07:00

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