なかの人

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ウサギの頭を脱いで喫煙室に向かう。本来なら胴体部分にも汚れや匂いがつかないよう配慮しなければならないのだが、私は特例により免除されている。
喫煙室には同僚のキツネ担当がいた。彼は私の顔を見るなりボヤいた。
「ったくよぉ〜。今月で更新終了になっちまったら、この先どう生活しろってんだよ」
私は煙草の箱の底を叩き、残っていた最後の一本に火をつける。
「来月アパートの更新じゃなかった? マジでどうすんの」
「そこで相談なんだけどさ、間借りさせてくれない? 一カ月でいいからさ!」
「ハハハ! 無理」
「そこをなんとか同僚のよしみでさ!」
「私の本性は身内にしか見せないって決めてるんだ。悪いが他を当たってくれ」
キツネ担当はなお追いすがったが、すげなく断り、更衣室へ逃げた。
おじさんの頭のかぶり物を脱いだ後の爽快さといったらない。私は本来のウサギ姿に戻り、データベースに従業員の評価を打ち込んだ。
ファンタジー
公開:25/05/26 10:08

いちいおと( japan )

☆やコメントありがとうございます✨

作品のイラストはibisPaintを使っています。

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