落ちぶれた物産展

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 私は百貨店の物産展に来ている。百貨店は物が良くても高いだけ。若い頃はカノジョの為に見栄を張った買い物をジャンジャンしていたが。五十を過ぎた今では無駄な出費だったと、若かりし頃無駄に空回りした思い出を嫌悪さえしている。
 そんなふうに忌み嫌う百貨店へわたしがわざわざ来てしまったのは。
「健ちゃん!」
 懐かしい呼び方だ。声をかけてきた方を見ると、海鮮弁当を売るブースから私を見つめる中年女と目が合った。
 大学生の頃結婚まで考えた彼女……全体的に厚みが、いやふくよかになった気はするが、それでも私の目には変わらず美しく映る。ふらふらと近づいた私に彼女が囁いた。
「健ちゃん、会社から沢山盗んだんだって? そのお金、また私のために使ってよ」
 学生時代もこの笑顔に釣られて、大学の研究費を使い込んだのだった。その金はすべて彼女に送るブランド品に化けた。大学中退後、就職してもパッとせず私は。また……。
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公開:25/05/29 20:09
更新:25/05/29 23:10

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