初めての味は…

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いつも私の店を贔屓にしてくれるWさんが相談に来た。

「うちの娘はずっと味覚障害があったでしょう。でも今度、人口味蕾によって味を感じられるようになるんです。娘が初めて味わうものは美味しい料理じゃないといけないと思って。そこで、シェフにお願いしたいんです」
「それは……おめでとうございます! 光栄ですわ。そのお役目、喜んでお引き受けしましょう」

翌月。お嬢さんの退院を祝うパーティーが開かれ、私はランチのフルコースを大勢のお客様に振る舞った。

鴨肉のパテを齧る少女をみんなが見守る。「初めての味はどうですか」と感想を促すテレビリポーターに対し彼女は、
「パパが作ってくれるウインナー丼の方がきっと美味しいわ」
と笑って答えた。

ふふ、何て賢いお嬢さんでしょう。その通り。親しい人が作る料理の方が美味いのだ。それにあのWさんの青い顔。これは料理に自信のない彼にもってこいの試練ね。
その他
公開:25/05/27 21:55

紅石紗良( 北陸 )

思いついたアイデアの備忘録を兼ねて書いています。よろしくお願いします!
Talesで連作を執筆中です。鉱物や宝石にご興味がありましたらぜひご覧いただければと思います。
https://tales.note.com/creche_collage/wmnx0phfegkgm

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