薬になる親

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「お父さん、行かないで……」
 娘が絞り出した声に、私は部屋の隅に寝たきりの彼女を見る。ぎゅっと寄せた眉の間には長年そうしてきたせいで深い皺が刻まれている。娘は幼い頃から頭痛が酷く起き上がれないのだ。それはうちの子ばかりではない。気候変動で激しく変わる気圧。その影響が子どもたちの体を蝕んでいる。頭痛で命が取られることはない。ただ苦しみが続くだけ。娘の青春時代はずっと布団の中で消耗されてしまった。
 物不足、薬不足の現代では子らに充分な薬を飲ませることはできない。それに対する唯一の解決策は血縁者がまさに身を粉にし、薬剤の原料になること。
 こんな時代が早く過ぎ去ることを祈り、私は家を出た。
SF
公開:25/05/23 07:51

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