それ採用

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 同僚の村田先生は、何をしても「こうはなりたくない」と思わせる存在だった。
 集会ではいびきをかいて寝るし、プリントを配るときはべっちょり指を舐める。採点ミスは多いし、個人情報の紛失という笑えないミスもする。
 ある日、村田先生は言った。

「俺はそれ採用だから」
「それ採用?」

 そのとき私は、「それ」が何を指すのか、まったくわからなかった。

 年度末、成績処理の真っただ中で、村田先生は突然学校に来なくなった。
 代わりにやってきた臨時教員の田中先生が、引き出しの中から厚みのあるバインダーを取り出した。

「こんなもの入ってました」

 中を覗くと、ミスの数々とその対処法が、びっしりと記録されていた。

「村田先生ってすごい人だったんですね。これがあれば、どんなミスも防げますよ」

 思わず笑ってしまった。
 村田先生は、すべてにおいて見習うべき「反面教師」だ。
ファンタジー
公開:25/05/15 19:29

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