押して駄目なら引いてみろ

「ヤバイヤバイヤバイ！」
　夕方の6時、門から出なきゃ、ばれたら体育の先生に怒られるというのに！
「なんでトイレのドア開かなくなるんだよ！」
　そう言えば噂で、この学校には、生徒を閉じ込めて吸い込んでしまうトイレがあると聞いたことがある。
　余計なことを思い出してしまったせいで、手は汗でグッショリと濡れて、ドアノブから滑って後ろに倒れる。後頭部に軽く便座が当たった瞬間、背筋が凍り付き思わず動けなくなった。
「お願いだから開いてくれえぇぇえ！」
　叫んだその時だった――
「どーした田中、トイレで暴れて」
　怖いで有名な体育教師だ。けれど、トイレに吸い込まれる事に比べれば、怒られた方がまだ良い。
「先生！ドアが開かないんだよ！助けて、吸い込まれる」
「馬鹿かお前」
　体育教師は難なくドアを開けては呆れ果てた顔をする。
「お前押してただろ、逆だよ逆、怒る気が失せたわ、早く帰れよ～」