洗剤

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 夜、私が働いているドラッグストアに、全身に返り血を浴びた男の人が入ってきて、洗濯用洗剤の棚の前に立った。一つ一つの洗剤のパッケージをじっくり見ている。最近は血液のシミに強い洗剤がたくさん出ているから、選ぶのに迷っているのだろう。やがてその男の人は一つの洗剤を手に取り、私に話しかけてきた。「これ、血が落ちるやつですよね?」洗剤をちらりと見て、私はうなずく。「そうですね」「これ、憎い人の血でも大丈夫ですか?」「大丈夫……です」「その憎い人は家族だったんですけど」「大丈夫……だと思います」「そうですか。ありがとうございます」男の人はレジに向かって歩いていった。そっと先ほどの洗剤のパッケージを見たが、どんな人の血に対応しているかは書かれていなかった。適当なこと言っちゃったな。私はそっと舌を出した。
ホラー
公開:25/05/11 19:19

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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