もう、後ろは見ないと決めたから

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髪を靡かせる風に、桜の花びらが混じっている。ふわりと香る優しい花の香りに、ため息をつく。
思えば、短い三年間だった。勉強に運動に部活に、人間関係に悩まされた、そんな三年間。
忙しかったし、辛いことばかりだったのに。もう懐かしくて、恋しくてしょうがない。
同じ高校に進学した友達は、一人もいない。だから、あの三年間を振り返ったってどうしようもないのに。
「……早く卒業したい、ってずっと思ってたのにな」
バルコニーから見上げた空は、門出を祝うように晴れ渡っている。
「あんなこともあったなぁ」
こんな時に思い出すのは、辛い記憶や忙しい記憶ばかりだ。それに付随した楽しい思い出が、一層美しいから__

「よし、そろそろ行こうかな」

前ばかり見なくてもいい。上ばかり向かなくてもいい。

たまには立ち止まったっていい。

それでも、もう。後ろは見ないと決めたから。
青春
公開:25/05/11 16:14
更新:25/05/11 18:22

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