ご入用の方はベルを押してください

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『ご入用の方はベルを押してください』。
 そう書かれたプレートと、丸くなって眠る黒猫が、スタッフ不在のチェックインカウンターにあった。猫の首輪には『ベル』という名前が刻印されている。
 ははーん。さすが、巷で噂の『猫のいる宿』。こういうところにまで『猫』という存在を押し出してくるのか。
 この猫を押したら、鳴くかなんかしてスタッフさんが出て来てくれるのだろう。
「では、失礼して」
 指先に軽く力を込めて、ふかふかな毛で覆われたベルちゃんの腹部をそっと押した。
 途端、緑色の目をカッと見開いたベルちゃんは、物凄い速さで顔を上げると、私の手にガブリと噛みついた。
「ギャーッ!」
「お客様、どうされました!?」
 カウンターの奥の扉から、血相を変えたスタッフさんが飛び出してきた。
 体を起こしたベルちゃんの下に、銀色の呼び鈴が見える。
その他
公開:25/05/11 14:43
更新:25/05/11 15:23

月野志麻

つきのしまです。一般文芸、純文学を書いています文字と共に生きる。
noteで三題噺SS集『人類月移住計画』を毎週土曜日に更新しています。
https://note.com/koyoinohanashi/m/mbe33801c024d

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