別れの風

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いつも通りつまらない仕事を済ませ、つまらない満員電車に乗り、つまらない家に帰ったある晩のことだった。
ドアを開け、ダイニングのテーブルに鍵と紙の切れ端が置いてあった。
今までありがとう。さようなら。
無造作に破り取られたメモ帳に書くには妙に形の整った文字だった。
彼女と3年の時を過ごしたこの家の合鍵からは、彼女の気に入っていた猫のキーホルダーは綺麗に外されていた。
鍵をぼうっと見つめると、端のところがすっかり錆(さび)ていることをその時初めて知った。
俺は引き出しから一年前に辞めていた煙草を取り出し、ベランダで吸った。
煙がひどく目に染みた。
一本吸い終わると、2本目を取り出し、中途半端に吸って途中で灰皿に押しつけた。
ベランダから部屋に戻ったとき、窓からじめじめとした不快な風がびゅうと吹いた。
書き残された紙の断片は吹き飛ばされ、部屋の埃が溜まった汚い角に追いやられた。
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公開:25/05/14 08:04

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