深く刺さった

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「これがあなた様の歯でございます」
老婆は傅き、俺に掌を見せる。そこには1本の犬歯が寂しく横たわっていた。
その姿を見た瞬間過去の記憶が海馬を駆けまわる。そして俺は膝をガタガタと震わせた。
「20年越しに見つかったお気持ちはどうでしょうか」
老婆はニタニタと笑いながら立ち上がった。そして懐からキラリとナイフを取り出す。
「こんなちんけな歯をいままで見付けられませんで申し訳ございませんでした。私がこんなにものろまなせいで旦那の死に目にも会えませんでね」
老婆の目は俺を縛り離さない。
「そりゃもう惨めでしたよ。どぶをさらいあげる毎日でしたから。これがあなた様の命令なのでね」
ナイフを持った手はどんどん高く上がっていく。
「しかし今日を思えば探してよかったと思いますよ。私ももう独り身ですからね。失う者は何もない」
老婆の目がかっぴらく。
そしてナイフは脳天へ向かって。
その他
公開:24/10/25 21:22
更新:24/10/26 19:51

リマウチ

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