ペンとラブレター

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ラブレターを夜書くと赤面ものの恥ずかしい作品になるのは世の常識だ。だがオレは毎夜バイトの苦学生。早朝か深夜にしか時間がとれない。まあ、この時代にピンクの便箋に手書きラブレターはすでに恥ずかしい作品なのだが、とにかくここ一番の大勝負。子どもの頃イヤイヤ習字教室に通った甲斐がある。
このためにちょっとお高いペンまで新調した。

このペンの滑りが良いのなんのって。走る走る。ロマンチックな言葉を駆使して饒舌に。え、オレこんな言葉知ってた?みたいな。
小説にありそう。ペンが立って人間みたいに喋り始めるとか。
だがこのペンは黙々と恋文を綴るだけである。

あの時のこいつ、なかなかいい仕事したよな。今また手に取って眺めてみる。
相変わらず小説のようにウインクしてくれない。
で、今隣にいる花嫁。妻じやないよ。娘。
今どきの結婚式だな。結婚証明書にサインしろだってさ。
オレはペンにウインクした。
青春
公開:24/10/27 15:02

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