笑って、優ちゃん

　小学生の僕には幼馴染の優ちゃんがいる。クラスでは無口な優ちゃんだが、笑うと花のような笑顔を見せてくれる。僕はそんな彼女の笑顔が大好きで、面白い話を考えては披露した。優ちゃんは「翔君は面白いね」と目尻に涙を溜めて笑ってくれた。
　ところが、ある日優ちゃんは交通事故に遭い、それ以来全く笑わなくなった。
　僕と優ちゃんが一緒に下校している途中、車が突っ込んできたのだ。優ちゃんは咄嗟に避けたものの、右腕を骨折し、心にも深い傷を負ってしまった。彼女を守れなかったことを僕は悔やんだ。
　数日後、退院した優ちゃんを元気づけようと僕は毎日沢山の面白い話をした。それでも彼女は口を閉ざし、僕と目を合わせようとしない。
　これ以上話しかけることが優ちゃんの負担になるなら、これで最後にしよう。僕は決意を固めて優ちゃんに声をかけた。すると彼女は静かに呟いた。
「翔君がいなくなったこの世界で笑って生きていけないよ」