父の黒縁眼鏡

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私の父は、レンズがとても分厚い黒縁眼鏡をかけていた。

父の眼鏡の思い出は一つだけ。
子供のころ、眼鏡を触るとすごく怒られたっけ。
それ以来、触らないように気を付けていた。

眠る時以外、いつもその眼鏡をかけていた。
今は笑顔の父の写真の横に置かれている。
眼鏡の度はどれくらい強いのだろう。
もう怒られることはないし、少しかけてみよう。

なぜかレンズを通して、泣きべそをかく小学生の私が見えた。
はしゃぐ中学生の私、飛び跳ねて喜ぶ高校生の私、椅子に座り前を向く大学生の私、うつむき泣いている社会人の私。
そして、ドレス姿の私。少しぼやけて見える。
最後に、喪服を着て泣いている私が見えた。

父はそばにずっといてくれた。
この眼鏡を通して、私を見つめてくれていた。
私は微笑んで、小さい声で「ありがとう」とつぶやいた。
涙が頬を伝って零れ落ちた。

父の眼鏡は、やっぱり度が強すぎた。
青春
公開:24/10/23 00:41
更新:24/10/23 00:53

初川 鳳一

作品を読んでいただきありがとうございます!

最近色々な小説を読んでいたら、自分でも挑戦をしたくなりました!
ド初心者ですが、みなさんが楽しめるようなお話が書けるように頑張りますー!

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