メモリークリーナー

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 発明というものは、いとも容易く、今までの"普通"を過去のものにしてしまうことが稀ではない。
 「メモリークリーナー」と銘打った小さな白い直方体、横は5㎝程度だろうか、消したい記憶を思い浮かべながら一度か二度擦ると、その記憶が消えてなくなるというもので、特に一部の若者の間で人気を博している。
 先日、親しい友人を交通事故で亡くした。彼女には申し訳ないが、その記憶をきれいさっぱり忘れることにした。忘れてからは道路を以前と同じように渡れるようになった。
 それで良かった筈だが、しかし、彼女について思い出そうとすると、抜け落ちた部分に風が通るような気がした。それ以降、クリーナーの世話にはならなかった。
 記憶というものは、自己の内面で完結するようなものではないのかもしれない。失恋にしても、親しい人の訃報にしても、感情の大きな動きこそが、記憶の主たる部分だったのかもしれない。
その他
公開:24/10/23 00:34

矢野白羽( 東北・関東地方 )

2006年生まれ、高校生。名前の由来は「白羽の矢」。勉強の傍らに思いついたアイデアを息抜きに形にしています。

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