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 彼の声が誰の声に似ているのか、すぐには思いつかなかった。ただ、誰かに似ている、誰かに似ているんだ、それは確かで、けれど思い出せないのはどうにももどかしかった。
 彼と出会って一年と少しばかり過ぎてから、ある瞬間に、ほとんど劇的に思い出した。
 一年以上も彼の声を思い出せなかった。本人と再会するより、その声のみと再会する方がせつないように感じられた。
 声が、私に尋ねる。
 今度の日曜日どこ行こうか?
「遊園地」と私は言った。

 地上から離れてしまうと、観覧車のゴンドラはほとんど静止して感じられる。空の青の中に放り出されたみたいになって、奇妙な浮遊感の中、私は目を閉じてみる。
 やがて彼が何でもないことを話し出す。
 彼が饒舌なのとは裏腹に、私の方では一言でも声を発したら泣き出しそうだった。
 次に目を開けたら、言わなきゃ。


 
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公開:24/10/14 12:20

コネインジェル( 東京都 )

写真と物語が好きです。
帽子と自転車が好きです。
尾仲浩二さんとジム・ジャームッシュが好きで、
エターナルとダホンが好きです。
TVと雨があまり好きじゃないです。

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