安いからではない

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 近所のスーパーの鮮魚売り場は、魚の前世ごとに棚が分けられている。私はいつも前世が人間だった魚を買う。他の魚に比べて安いからではない。数年前に死んだ息子が、生きている時常々、「死んだら魚に生まれ変わりたい」と言っていたからだ。

「何の魚に生まれ変わりたいの」
「んー、さんまかいわし」
「食べられちゃうよ」
「いいもん」

 今日はさんまを一尾買った。家に帰って焼いて食べた。
 優しい味がする。たぶん、これも息子じゃないな。息子の味、知らないけど、そんな感じがする。
 毎日魚を食うのも飽きるので、たまに豚肉を買う。その時私は、息子が豚に生まれ変わってたらどうしよう、と少し不安になる。
ホラー
公開:24/10/13 22:28

六井象

短い読み物を書いています。その他の短編→ https://tomokotomariko.hatenablog.com/

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