窓からの景色

「窓、開けますね」
その言葉に私は曖昧な返事しか返せなかった。
ダイアログ・イン・ダーク。視覚障碍者の世界を体験すべく、視界が暗闇に覆われるイベント。
本当に何も見えず、一人では歩く事さえ困難な私を視覚障碍者の方が手助けしてくれる。まるで見えているようだ。
窓を開ける音。風に木々が揺れる音。鳥のさえずり。見えないのに、見える気がした。
「風が気持ちいいですよ。こちらへどうぞ」
案内されるがままに窓際へと移動。案内の為に繋がれたその手を私は離せないでいる。
「大丈夫ですよ」と安心させる声。見えないのに見える気がした。
風が頬を撫でる。花の香りにシジュウカラの声。以前視界は暗闇に包まれたまま。だけど、景色が見えてくる。それに私は感動すら覚えていた。
イベント終了後、暗闇で見られなかった窓からの景色を改めて見せてもらう。
想像したものと同じ景色。唯一見れなかったのは私を助けてくれた方の姿だけだ。