座敷童が見えなくなる時

座敷童。子どもにはその姿が見えるも、大人にはその存在が認知できない…一般的に伝えられている情報としてはそんなところだろう。
だが、俺の実家の蔵に住む座敷童は事情が違う。今年５０になる俺にもしっかりとその姿が見えていた。
『親にとって子はいつまで経っても子。親がいる限り、その子にはいつまでも儂が見えるんじゃよ』
そう話す座敷童。
だが俺の目には今、その姿が酷く朧気に見えてしまっている。
覚悟はしていた。病床に伏せる父。もう長くはないのだろう。
母も５年前に亡くなっている。つまり、俺ももうすぐ座敷童が見えなくなるってわけか…
だから今日、蔵にやって来たのは座敷童に別れを告げる為でもあった。
「父さん。母さんが今すぐ来てくれって」
息子が俺を呼びに来た。
俺は座敷童に「それじゃ。元気でな」と告げ、蔵を出る。
「あれ？座敷童どうしたの？何か薄くない？」
息子のその一言で俺もまた、己の死期を悟った。