窓からの景色

薄暗い部屋の中、一頭で過ごすゴリラを息子はじっと見つめている。
折角動物園に来たというのに、さっきまでどの動物にも興味を持たず、走り回っていた息子が、だ。
「ねぇ、このゴリラ、ぼくとおんなじなんだって」
息子が指さす先にそのゴリラの説明書きがあった。
『こちらのゴリラは自閉症で、他のゴリラと分けて暮らしています。大きな音を立てたり、強い光を当てるとびっくりするので静かに見てね』
ゴリラも自閉症になるんだ…初めて知った。
檻ではなく、ガラス戸で隔てられた向こう側は窓みたくすぐ近くに感じる。
「ぼく、このゴリラと仲良くなりたい」
その一言に私は慌てた。自閉症の息子はきっと大声を上げるに違いない。そう思っていたが…
「ぼくもね、おっきな音苦手なんだ」
そう言ってゴリラに向てて小さく手を振る息子。
「またくるね」
息子の声が聞こえたわけではないだろうが、ゴリラは息子を見つめ、小さく手を振っていた。