しばく霊

昭和の時代、多くの家には”しばく霊”が憑り付けられていた。地縛霊ではない。しばく霊だ。
しばく霊はあらゆるものをしばく。
悪い事をした子供の頭をしばいた。
寝坊しそうになるとしばいて起こしてくれた。
鉄拳制裁。昔の子ども達はこうやって正しさを学び、大きくなった。私もよく、しばく霊にしばかれていたなぁ…
特にウチのしばく霊は本場関西から取り寄せたベテラン品だったので、そのしばき方にもキレがあった。
ブラウン管テレビの映りが悪くなると、しばく霊はテレビをしばいた。するとテレビの映りが良くなる。
時々、お茶をしばきに喫茶店に連れてきてくれた。しばく霊は幽霊なので足がない。払いはいつも私だった。
しばく霊との生活は楽しかった。不自由の楽しみ方を教えてくれた。
だから友達の家に行くとキレのないしばく霊のしばき方にモヤッとした。
それをウチのしばく霊に話すと「そりゃ、隣のしばは青いからな」と笑った。