ムーンケーキと着陸

太陽よりお月様の方が好きよとアイツは言った。自分から光らないところが好きだと。
へぇ。こんなこと言うんだ。
自分は太陽みたいなのに。
彼女でもガールフレンドでもない。家が隣同士と言うだけだ。
僕が就職でこの町を出ていく前の日にまん丸のチーズケーキを焼いてくれた。月をイメージしたらしい。
これまでもよくクッキーとかを作って持ってきてくれてお袋も一緒に食べていたが今日は川辺りに座って食べたいという。
一緒に食べるのかと思ったら全部食べてくれという。
ムリだよと言って慎重に丸くくり抜いて満月と三日月とに切り分けたら涙を流して笑った。

月は着陸できなくていいのかなあ。
ただ見てるだけで。

アイツは月を見ながらポツリとそう呟いた。

出発の朝はいつものアイツに戻っていた。
誰よりも大きく誰よりも長く両手を振ってくれた。