バンドを組む残像

　来る日も来る日も紐を編んでいる女性達がいた。無駄話をせず黙々と指先を器用に動かし紐を編む。時々、硬さを確かめるために引っ張るキュッキュッという音だけが工房に軽快に響いている。

　工房には秋の涼しい風が吹き込み、暑い夏の汗ばんでいた季節より格段に過ごしやすい。額や首筋そして指先の汗を気にすることもなくなり、紐を組み上げる効率も上がった。過ごしやすさは女性たちの顔を笑顔にもしている。

　同じ作業を延々と繰り返す様は、まるで数秒前に実施した作業を正確にトレースしているようにも見える。女性達が作る紐は色々な用途に使われるが、この工房では本を束ねるときに利用する網の目状になった若干伸び縮みするバンドを作っている。作業のコツを聞いてみると一人の女性が明確に答えてくれた。

「私たちは、バンドを組む残像を追いかけながら組み上げているのよ。ほら、これが最新作のバンドよ。大切な本を縛るのに便利でしょ」