失くす

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つくづく面倒な研究に首を突っ込んだものだ。
研究者は机に突っ伏した。
彼は人が物を失くす原理を研究している。
研究室の実験用マネキンのズボンの右後ろポケットに電車のチケットを入れておいた。十分後にポケットを探るとものの見事に無くなっていた。
何の脈絡も因果関係もなく「あるはずのところに無い」のである。
こないだはカバンの内ポケットに差した高級ペンが三日で姿を消した。さらにこのケースでは「高額なものほど無くなりやすい」という相関関係を説明しなければならない。
既にこの研究にそれなりの時間と予算を投じてきたがまだ何の糸口すら見つけることができていない。
人類は何百万年もの間この奇怪な現象に対し、ただ漠然と「注意しなさいよ」で済ませてきたのだ。

その数年後、彼はさらに頭を抱えることになる。
やっと微かに光明が差しかけた彼の研究室に「忘れた頃に出てくる」の現象が頻発したのである。
公開:24/09/30 14:20
更新:24/09/30 14:26

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