罪と枝豆

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おいでおいでと紺色の暖簾が夕刻の風に揺らぐ。駅前の居酒屋。久々に戸を開けると、カウンターの大将はオッと目を開き、明るく迎えてくれた。島田さん、暫くぶりですね。大将はまずおしぼり、それからいつもの星の麦酒瓶とグラスを置く。仕事で色々あって…グラスを飲み干す間に、なめろうと梅水晶が並んだ。酒が染み渡る。勢いがつく。
大将、僕、会社で悪いことしたんです…客先の帰り、出来心で…30万ばかり懐に入れた。金に困っていたわけじゃないのに…馬鹿です…大馬鹿だ。
明るい店内は罪を犯した僕の立つ場所とは別世界のようだ。僕はなにかの役を演じている錯覚すら感じたが、全ては現実だ。
島田さん、そりゃよくない。でも涙が出るなら生き直せる。そうだろう?大将は茹であがった枝豆を篭盛りにした。島田さん、野菜にも花言葉があるって知ってるかい?枝豆は「必ず訪れる幸せ」らしい。
その温かく塩辛い豆を一粒ずつ噛みしめ、僕は泣いた。
その他
公開:24/09/20 15:16
更新:24/09/21 12:06

こずえ

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