月見荘

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シルバーウィークに「月見荘」を訪れた。秋だけ宿泊できる秘境の温泉旅館だ。
満月のように丸い顔をした女将が月見荘の玄関で出迎えてくれた。フロントでチェックインを済ませると、女将が部屋まで案内してくれるという。その道すがら女将は月見荘について話し始めた。
「部屋の名前は、月の満ち欠けに合わせて、新月、三日月、半月、満月などに分かれています。今日のように天気が良ければ、部屋の窓から部屋の名前と同じ形の月を愛でることができます。
各部屋が地球と似た惑星のように自転していて、回転している速度がバラバラのため部屋によって見える月の形が違うんです。また、月見荘自体は公転していて、あたかも月と同じ衛星のようです。これも小宇宙を巡る月見荘の不思議な構造に理由があるんですが、残念ながら誰がいつ建築したのかはわかりません」
今宵、綺麗に澄んだ夜空に部屋の名前と同じ満月が飾られた月見草の花と共に厳かに輝いていた。
その他
公開:24/09/16 06:16
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SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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