お団子のないお月見

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僕の家では毎年お月見をする。庭にシートを敷き、ばあちゃんの作ったお団子を食べるんだ。
覚えている限り、十五夜はいつも晴れだった。でも、今年はくもり。何度天気予報を見ても変わらず、夕飯を終えた今も、空には厚そうな雲が。
これじゃあできないな。僕と弟はがっかり。
「お月見始めるよ」
呼ばれたのは、僕らが布団に入った時だった。
「え、無理だよ」
「いいからいいから」
なぜか楽しそうなばあちゃんに急かされ、シートに座る。そこには割り箸が三本。でもお団子も月もない。
「いくよ」
ばあちゃんは割り箸を持つと、指揮者みたいに空をかきまぜた。
すると、そこにはわたあめが。
「あんたたちも」
半信半疑でやってみると、微かな手応えとともに、ひんやりした雲がまとわりついてきた。
そのおいしいことといったら。
僕らは東の空に向かって何度も手を動かした。
雲が切れて月がのぞいた時には、皆まんまるのお腹になっていた。
ファンタジー
公開:24/09/15 02:16
更新:24/09/15 13:27

藤原チコ

読むのも書くのも好きです。よろしくお願いします!

2022 ショートショート集『節目の一杯』をつむぎ書房より出版
2023 愛媛新聞超ショートショートコンテストにて「かぞくしんぶん」が特別賞に選ばれる
2024 第20回坊っちゃん文学賞にて「鯉のぼり」が佳作に選ばれる

発表し合える環境に感謝します。

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