ヒッチ俳句

0
4

今度は軽トラを止めた。
「中町方向に乗せてください」
短髪頭のドライバーは顔を窓によせて言った。
「柿くえば鐘が鳴るなり」
私は返す。
「腹も鳴る」
ドライバーはごめんよと言って去って行った。

この度のヒッチハイク旅でおそらく最大の難所だろう。
俳句が大変盛んなこの町では「ヒッチ俳句」が要求されるのだ。
ドライバーの上中句お題に創作の下句を返して判定を受ける。
町の人たちは親切で、止まってくれる車はむしろ多いが俳句には手厳しい。
オレこの町から出られるのかな。
秋風に背中を押されてここで宿をとることに決めた。

寝床を確保したとたん本当に腹が鳴った。
宿までの道すがら見当をつけていた居酒屋に入ってカウンター席を取る。

焼きうどん
レバニラ炒め

好きなものを頼めばいいのに今日の惨敗がどうにも悔しく五七五調を優先する。
あと一皿。
魚嫌いのオレは頭をかきながら季語をおいた。

秋サンマ。
公開:24/09/17 10:29
更新:24/09/18 19:21

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容