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 「あの小さな象はお前と同い年だよ」
 3歳の時に初めて連れて来てもらった動物園で、父は子象を指さして彼にそう言った。
 かわいい子象は彼と目が合うと、鼻を振って応えてくれた。

 「あの象は父さんと同い年なんだ。強そうだろ」
 家族で訪れた動物園で、彼は大きな象を指さして、幼い息子にそう言った。
 象は巨体を揺らして歩き回っていたが、彼と息子の方に顔を向けて鼻を振ってくれた。

 「あの象はおじいちゃんと同い年なんだね」
 「ああそうだ。あの象が生きているうちは、じいちゃんもがんばるよ」
 息子夫婦に車椅子を押され、孫たちとやって来た動物園。ひさしぶりの外出だ。
 彼の体は病にむしばまれている。頭はまだしっかりしているが、ボケたふりをしている。
 あの象がとっくに死んで代替わりしていることくらい知っている。
 でも、孫たちが……
 「おじいちゃん、あの象みたいに長生きしてね」
ファンタジー
公開:24/09/11 23:01
更新:24/09/11 23:15

ナラネコ

老後の楽しみに、短いものを時々書いています。

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