満ち満ちる

残業を終えて帰宅途中、どこか居酒屋はないかと探す。
もう日付も変わっており、注文できたとしても一杯程度…それでも飲んでいきたい気分だった。
何とか開いている店を見つけるも、鬼火のような提灯が一見の私を威圧する…が、勇気を出して店の中へと足を踏み入れる。
「すみません、今満席なんです」
首を傾げる。店内はどう見てもガラガラ。どこに客なんているんだ？
「あれ？お客さん、見えていない？それなら、こちらの眼鏡をどうぞ」
手渡された眼鏡をかけると度肝を抜かれた。妖怪達が酒を飲んでいた。
妖怪好きの私は思わず「相席させて下さい！」とお願いしてしまった。
気のいい妖怪が私を招いてくれた。人間と一緒に酒を飲むなんて百年ぶりだと喜ばれた。
話も合うしとても気のいい連中で、ウチで飲み直さないか？とも誘われた。
さすがに神隠しに遭うとマズいので、また明日この店で一緒に飲もうと約束し、満ち足りた気分で店を出た。