満ち満ちる

同窓会の誘いを受け１０年ぶりに故郷へと帰ってきた。
俺の隣には定位置と言わんばかりに幼馴染の女性が座る。彼女の左手薬指を見れば、きらりと光る指輪が。
どうやら今日の同窓会は彼女の結婚報告も兼ねてのものらしい。
「逃がした魚は人魚姫だったぞ」
元カノでもある幼馴染が悪戯っぽく笑いかけてくる。この表情に昔の俺は惚れた。
幼馴染故の告白なきカップル成立。そして、別れの言葉もない破局。
彼女に対して思う事はある。だけど、俺には何も言う資格がない。
そもそも俺だって結婚している。今年、上の子は小学生になった。
妻に不満？ないと言えば嘘になる。だけど、妻は彼女よりもずっと大切な存在だ。
俺は彼女を愛している。だけどそれは家族に向ける感情と同じだ。恋愛感情がないと彼女も理解しているから言葉のない別れを受け入れてくれた。
幸せになれよ。
誰よりも幸せになって欲しい女性に俺はこれからも愛を送り続けるだろう。