満ち満ちる

愛してる。単純な一言に彼は思いを込めてくれる。
愛している。簡単な一言に私は命を懸ける。
彼は王族の人間で私はただの人魚…普通なら会う事さえ許されない。
だけど私達は運命的な出会いをしてしまった。
私達は愛し合っている。しかし一緒になれない…
人間は水の中で生きられない。
人魚は長時間空気にさらされるとその身が泡となって消えてしまう。
決して結ばれない…だけど諦める事も出来ない。
逢瀬だけを繰り返す。
そんな私達にお互いの両親は呆れた。
彼は海に映った自分を愛する変わり者だと言われた。
私は自殺行為を繰り返す愚か者だと言われた。
両親に見放された私達。
だけどこれで共に生きられる。
彼はアンデルセンという名前で詩や文章を書き始めた。私をモデルに話も書いてくれた。
嘘の中に事実を盛り込む。大衆は彼の物語の虜となった。
当然よ。彼の物語には単純な一言にさえ、万感の思いで満たされているのだから。